相続手続きで「法定相続人全員の同意」が必要な場面と、同意が得られない場合の対処法
目次
相続手続きで「全員の同意」はいつ必要?
相続が発生すると、多くの手続きで「法定相続人全員の同意」が求められます。
しかし、相続人が複数いる場合、全員の同意を得ることは想像以上に大変です。
この記事では、どの場面で全員の同意が必要か、そして同意が得られない場合にどう対処すべきかを解説します。
この記事で解決できること
- 法定相続人全員の同意が必要な手続きがわかる
- 同意が得られない場合の代替手段を知ることができる
- トラブルを未然に防ぐためのポイントがわかる
- 専門家に相談すべきタイミングが判断できる
法定相続人全員の同意が必要な主な手続き
相続手続きには、法律上「全員の同意」が必須となる場面があります。
以下、代表的なケースを見ていきましょう。
■ 遺産分割協議
遺産分割協議は、相続財産をどのように分けるかを相続人全員で話し合う手続きです。
この協議には法定相続人全員の参加と合意が必要です(民法第907条)。
一人でも欠けた状態で作成された遺産分割協議書は法的に無効となります。
後から無効を主張されると、登記や預金解約のやり直しが必要になります。
■ 不動産の名義変更(相続登記)
不動産を相続人の一人または複数の名義に変更する場合、遺産分割協議書への全員の署名・押印が必要です。
法定相続分での共有登記であれば一部の相続人だけでも可能ですが、実務上は望ましくありません。
2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産の取得を知った日から3年以内の登記が必要です。
違反すると10万円以下の過料が科される可能性があります(不動産登記法第164条)。
■ 預貯金の解約・名義変更
金融機関で預貯金を解約・払戻しする際も、原則として相続人全員の同意書または遺産分割協議書が求められます。
一部の金融機関では簡易的な手続きもありますが、基本は全員の関与が前提です。
💡 遺産分割前でも一定額までの仮払いが可能な制度もあります(民法第909条の2)。
■ 株式・有価証券の名義変更
上場株式や投資信託などの相続手続きでも、証券会社は遺産分割協議書の提出を求めます。
全員の同意がない場合、相続人全員の共有名義となり、後の売却時に再度全員の同意が必要になります。
同意が得られない「よくあるケース」
実際の相続現場では、さまざまな理由で全員の同意が得られないことがあります。
■ ケース1:相続人の一部と連絡が取れない
長年疎遠になっている兄弟姉妹や、住所が不明な相続人がいる場合です。
この場合、戸籍の附票や住民票を取得して現住所を調査し、手紙で連絡を試みます。
それでも所在不明の場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる必要があります。
詳しくは相続人が行方不明の場合のページをご覧ください。
■ ケース2:相続人の一部が協議に応じない
遺産分割の内容に不満がある、感情的な対立があるなどの理由で、話し合いに応じてもらえないケースです。
この場合、まずは冷静に話し合いの機会を設けることが大切です。
それでも進展しない場合は、家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用します(家事事件手続法第244条)。
調停でも合意できない場合は、審判に移行し裁判所が分割方法を決定します。
■ ケース3:相続人の一部が認知症や未成年
相続人の中に判断能力がない方や未成年者がいる場合、そのままでは有効な同意ができません。
認知症の相続人がいる場合は、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる必要があります。
後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加します。
未成年者がいる場合は、親権者が代理できますが、親権者も相続人の場合は「特別代理人」の選任が必要です(民法第826条)。
詳しくは相続人が未成年の場合をご参照ください。
■ ケース4:海外在住の相続人がいる
相続人の一部が海外に住んでいる場合、印鑑証明書が取得できないため、現地の日本領事館で「サイン証明」を取得する必要があります。
時間がかかるため、早めの連絡と調整が重要です。
💡 相続人が海外在住でも大丈夫?のページで詳しく解説しています。
全員の同意が得られない場合の対処法
同意が得られないからといって、相続手続きを諦める必要はありません。
法律には、こうした事態に対応する制度が用意されています。
■ 家庭裁判所の調停・審判を利用する
話し合いがまとまらない場合、遺産分割調停を申し立てることができます。
調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入り、公平な分割案を提示してくれます。
調停が不成立となった場合は、自動的に審判に移行し、裁判官が法定相続分などを基準に分割方法を決定します。
■ 不在者財産管理人・特別代理人の選任
所在不明者や利益相反がある場合は、家庭裁判所に申立てを行い、代理人を選任してもらいます。
これにより、法的に有効な遺産分割協議が可能になります。
■ 相続人申告登記の活用
相続登記義務化に伴い、「相続人申告登記」という制度が新設されました。
遺産分割が未了でも、法定相続人であることを申告するだけで義務を履行したとみなされます。
⚠ ただし、これは暫定的な措置であり、最終的には遺産分割協議と正式な相続登記が必要です。
よくある失敗例と対策
ここでは、実際に起きがちな失敗例と、その対策を紹介します。
【失敗例1】一部の相続人を除外して協議を進めてしまった
疎遠な相続人がいることを知らずに遺産分割協議を進め、後から協議が無効になるケースです。
対策: 必ず戸籍を収集して、法定相続人の全員を確定させましょう。
【失敗例2】感情的な対立を放置した
相続人間の感情的な対立をそのままにしておくと、話し合いが進まず長期化します。
対策: 早い段階で第三者(弁護士など)を入れ、客観的な視点で協議を進めることが有効です。
【失敗例3】認知症の相続人の判断能力を確認しなかった
判断能力が不十分なまま協議に参加させると、後から無効を主張される恐れがあります。
対策: 疑わしい場合は医師の診断を受け、必要に応じて成年後見制度を利用しましょう。
【失敗例4】期限を意識せず放置した
相続登記や相続税申告には法定期限があります。
同意が得られないことを理由に放置すると、過料や延滞税のリスクがあります。
対策: 期限が迫っている場合は、調停申立てや相続人申告登記など、暫定的な手続きを並行して検討しましょう。
専門家に依頼すべきケース
以下のようなケースでは、司法書士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。
- 相続人の人数が多く、連絡調整が困難
- 相続人の中に行方不明者や認知症の方がいる
- 遺産分割で意見が対立し、話し合いが進まない
- 相続登記や相続税申告の期限が迫っている
- 海外在住の相続人がおり、手続きが複雑
- 不動産や事業用資産など、分割が難しい財産がある
司法書士は、戸籍収集・遺産分割協議書の作成・相続登記まで一貫してサポートできます。
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よくあるご質問(FAQ)
Q1. 相続人の一人が海外にいて連絡が取れません。どうすればいいですか?
まず現住所を確認し、国際郵便で連絡を試みましょう。
それでも連絡が取れない場合は、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることができます。
Q2. 遺産分割協議に一人だけ反対している場合、多数決で進められますか?
いいえ、遺産分割協議は全員一致が原則です。
一人でも反対している場合は、家庭裁判所の調停・審判を利用する必要があります。
Q3. 認知症の母がいますが、遺産分割協議はできますか?
判断能力が不十分な場合、有効な同意ができないため、成年後見人の選任が必要です。
後見人が御本人に代わって協議に参加します。
Q4. 相続登記の期限までに遺産分割がまとまらない場合はどうなりますか?
2024年4月施行の相続登記義務化では、不動産の取得を知った日から3年以内の登記が必要です。
協議が間に合わない場合は、相続人申告登記を行うことで義務違反を回避できます。
Q5. 司法書士に依頼すると、どこまでサポートしてもらえますか?
司法書士は、戸籍収集・相続人調査・遺産分割協議書作成・相続登記・預金解約などの手続きを代行できます。
ただし、相続人間の示談交渉や代理交渉は弁護士の業務範囲となります。
⚠ 本記事は2025年2月時点の法令に基づいています。最新の法令や個別のケースについては、司法書士にご相談ください。
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この記事の執筆者
- イージス&パートナーズ司法書士法人 代表 安井大樹
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保有資格 司法書士、行政書士 専門分野 相続全般 経歴 平成14年(2002年)司法書士資格取得し、相続を専門として業界20年以上の豊富な経験と知識を持ち合わせる。
2017年6月 著書『ひとりでできる 実家の相続登記』を出版
2022年12月9日発売のPRESIDENT【2022.12.30号】に『2024年義務化 「相続登記」を自分で済ませるレッスン』が掲載
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